はじめに
表紙のインパクトが強すぎた・・・。この鳥はタイトルにもあるヒクイドリ。主にインドネシアやオーストラリア北東部、パプアニューギニアなどに生息しています。性質は気性が荒く、時速50km/h程度で走り、鋭い爪を持っているのだとか。
ヒクイドリ怖い。これがTLに出てきたときはびっくりしました。ふと後ろを向いた時、がっつりのぞき込まれるような絵です。数秒後には食われるんじゃないか、と感じさせる絵です。この鳥が気になって、つい手に取っちゃいました。表紙も本選びには欠かせない要素、この本に最適な絵だと思います。
本編
さてそれではあらすじから。
信州で暮らす久喜雄司は、 久喜家の墓石が破壊されたことをきっかけに、祖父の家を訪れる。そんな彼の元へ届いた謎の日記。それは太平洋戦争末期に戦死した大伯父・久喜貞市の遺品だった。その日記をきっかけに、雄司の周りで不可解な事件が起き始める。貞一とともに従軍していた藤村の死、日記を取材していた記者の発狂、雄司の前に現れる謎の少女。さらに祖父・保までもが失踪してしまう。混乱する雄司に残されたのは、貞市の日記のみ。仲間の死や敵兵への恐怖が綴られていた日記には、ヒクイドリヲクウ ビミナリ」という不可解な文言が残されていた・・・。
本の魅力(ネタバレなし)
シンプルに怖い。あらすじを読むと、主人公が怪異の謎を探る王道ストーリーに思えます。が、この『火喰鳥を、喰う』がほかの本と違うのは、展開のスピード感です。普通のホラー作品は、様々な怪異現象をじっくり書いています。『〇〇が現れた』というイベント一つに対し、外見や出没表現を丁寧に描写しています。
じゃあこの『火喰鳥を、喰う』はどうかというと、怪異の描写がすごくスッキリしています。書き方が雑とかじゃなくて、テンポが速い。どんな怪異がいて、どんな現象が起こったかを丁寧に書き、そのつなぎ目をシンプルに書いています。そのおかげで今何が起こっているのかを把握しつつ、それでいて展開がダラッとしないようになっています。
怪異現象自体も、人が死ぬ、失踪するなどありふれた現象が多いです。ですが、展開の速さのおかげで飽きずに読めます。普段本を読むのに時間をかける方でも、比較的素早く読めるのではないでしょうか。
本編感想(ネタバレ若干あり)
やっぱりあったことが無かったことにされるのが一番怖いんだな、と思いました。自分を知っているはずの人から知らない人扱いされる、当たり前にあるはずのものがそこにはない・・・。喪失というのは耐え難い恐怖をもたらすんですね。
そして怪異の理不尽さ。主人公って怪異に対していろんな対策を打つんですよ。まずは自分たちでできること、情報集めとか日記の調査、怪異に遭遇した人へのフォローとか。ホラーで死ぬ人あるあるの、心霊現象を頭から信じない奴もいません。
それでどうにもならなくなったら、怪異に詳しい人物に協力を仰ぐ。北斗(怪異に詳しい人)と雄司、雄司の妻は学生時代にトラブルがあり、良好な関係とは言えない。でも怪異から妻を守るため、雄司はプライドを捨てて北斗の指示に従う。ほかの登場人物、日記についてインタビューしに来た新聞記者や雄司の義弟も、雄司たちの妨害とかはしない。ちゃんと怪異を解決するため努力している。
でもまったく意味をなさないんですよ、これが。全部無駄に終わってます。一つ一つの対策も、怪異によって全部潰されちゃう。全然対抗させてくれない。『ここまで行けば安全だから!←もうそこ制圧しちゃったんだなぁ、これが』の繰り返しです。話のテンポが速いことも相まって、なおさら絶望感が強い。
さらに主人公に落ち度はないんです。呪いの祠を壊した、開かずの間をあけた、みたいなこともしてません。徹頭徹尾、理不尽な怪異に襲われる被害者で、本人に落ち度はない。言うなれば、主人公は最初から詰んでいた、と思います。ネタバレになってしまいますので、これ以上は控えますね。
いかがだったでしょうか?今回は原浩の『火喰鳥を、喰う』を紹介しました。ホラーに興味はあるけどグロすぎるのはイヤ、本を手軽に読みたいという方は是非ご一読を。それではまた。
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